風の中のマリア

私はミツバチが大好き。


生まれてからせっせと働いて、蜜を集める。その蜜を集める過程で、ミツバチは花の受粉を手伝っている。あんなに小さくても、その生態は、立派な地球の循環の一部。唯一の武器である針は諸刃の剣で、一回刺したらそこで自分の命も終わってしまう。まさに命をかけた一撃。あんなに小さいのに、そんなに健気なミツバチがもう可愛くて可愛くて。(それなのに蜂蜜横取りしてるんだけどさ)


そのミツバチの数が減っている。原因はてっきり農薬や人間だと、この本を読むまでは思ってた。でも、同じ蜂であるセイヨウミツバチやオオスズメバチに巣ごと襲われて、全滅させられてしまう事もあるっていうのを、この本で学んだ。


本当はミツバチの本を読みたかったんだけど、この本の評価が高かったから気になって、買ってみることに。


結論、買ってよかった。面白いし、勉強になった。


主人公はオオスズメバチの働き蜂、マリア。蜂を擬人化したお話。戦士として戦い、餌を持って帰る役目を持つ蜂。この話には戦闘モノと、蜂の生態を学べる教科書という、二つの面がある。


どうして戦闘ものかというと、先に書いたようにマリアは戦士で、餌を持って帰らなければならない。つまり獲物を狩るんだけど、もちろん抵抗しない相手はいない。そこで命を懸けた戦いが始まる。いろんな虫と対決して、命乞いする相手に一切の慈悲を与えず、時には巣ごと殲滅してしまう。その描写がなかなか残酷で、ちょっとこころが痛むんだけど、これが自然界の弱肉強食。


しかも敵は虫だけじゃない。鳥に食べられる危険性も大いにある。鳥を警戒しながら、獲物を探して狩る。そして持ち帰ると、また狩に出る。ひたすら戦いを繰り返しているだけなんだけど、飽きずに読める。30日間の生を、自分の役目を全うするために、疑いもせずまっすぐに生きるマリアの姿には、考えさせられるものがある。


それから、教科書的な一面。オオスズメバチの生態がよくわかる。獲物をどう狩るのか、どう持ち帰るのか。どんな相手を狙うのか。ミツバチとセイヨウミツバチの意外な関係もわかった。最強だと思っていた女王に待っていた最期も驚いた。自然界って本当に厳しいけど、個ではなく種の繁栄のために、存在しているんだなと実感した。


それにしてもミツバチは、敵が多くて本当に辛い。特にセイヨウミツバチに対しては、為す術がない。一方オオスズメバチに対しては秘策があって、撃退できてしまうのが、また面白い。なぜかっていうと、オオスズメバチは在来種だから、長い歴史の中で対抗策を生み出したの(生命の神秘)。だけどセイヨウスズメバチは外来種で、対抗策を生み出せるほど長い歴史を積んでないから、一方的にやられてしまうというわけ。辛い。


他にも、もっと色んな蜂に関する知識をここで得られて、物語としても楽しめるし、蜂博士にも近づけるしで、大満足の1冊。


自然好きな人にお勧め。

著者:百田尚樹

頁数:320ページ

出版社:講談社


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