夜間飛行
”星の王子様”で有名な著者、サン=テグジュペリ。
確かに星の王子様も好きだけれど、
それ以上に好きなのがこの本。
Vol De Nuit / 夜間飛行
フランス語、かっこいい。
この本の何が好きって、とっても描写がロマンチック。
サン=テグジュペリもきっとフランス語でロマンチックに書いてるんだろうけど、それを訳した翻訳の堀口さんの手腕に脱帽。
世界で一番美しい文だと思う。
これは、どの公共機関よりも早く荷物を待ち人に届けるために、夜も休まずに飛び続けることを試す空の郵便屋さんの話。
当時(刊行されたのは、1931年)の飛行機といえば、まさに表紙に描かれた通り、人が二人乗れるぐらいの小さなもの。
自分の位置を知らせてくれる詳細な計器盤もGPSもない。
海のように、空に灯台があるわけでもなし。
天気がよければまだ良いけれど、自然相手ではそうはいかない。
悪天候の中で迷ってしまい、燃料切れで墜落。
もしくは視界不良で山に突っ込んでしまい墜落。
機体故障で墜落。
危険はたくさんある。
これもまた、過酷な自然を相手にした、自然と生きる職業。
時には牙を剥かれて命を落とすこともある。
それでも飛行士を続けた者たちは、自然が何なのかを理解していたのだと思う。
そんな危険な仕事にかける情熱、というのは、実はそんなに描かれていない。
どちらかというと、「仕事が好きだから空を飛ぶ」というより、「空を飛ぶことが好きだから仕事をする」といった印象を受けた。
この話の主役は、郵便飛行会社の支配人リヴィエールと、飛行士ファビアン。
リヴィエールは地上視点、ファビアンは上空視点で物語が進んでく。
リヴィエールサイドのストーリーでは、特に、彼の支配人としての頑固なまでの生き方が印象深い。
上に立つものとして、部下とは馴れ合わない。
公平に公正に厳しく接しているが、その裏には、多数の人には理解され難い、愛がある。
彼の仕事に対する苦悩や信念が、描かれている。
この点は、部下の上に立つべき人の姿を描いてると思う。
(リヴィエールは真面目すぎて、こんな上司がいたら絶対嫌だけど)
誰にも理解されなくても、自分は相手を愛し、仕事に誇りを持っている。
そう見ると、この話は、自己啓発的な一面もあると思う。
でも私がお勧めしたいのは、ファビアンサイド。
空から見た地上の描写が、とんでもなく美しい。
些細な自然の景色の違いを、言葉で巧みに表現してしまう。
美しくありながら、情景が目の前に浮かぶような描写に心を打たれたのは、1回や2回ではない。
サン・テグジュペリ自身、長年パイロットを経験している。
(最期は偵察機に搭乗して出撃したまま、帰らなかった。)
彼は、彼が見た景色を、話の中でそのまま共有してくれている。
私も飛行士になって、空を散歩している気分になる。
好きな文
”だが夜はすでに、黒い煙のように地表から昇ってきて、谷間々々を満たしていた。
(中略)
村々には灯火がついて、彼らの星座は、お互いに呼びかわしていた。”
読むリズムが難しい、句読点が多い文
”さて今、こうして夜警のように、夜の真っただ中にいて、彼は、夜が見せている、あの呼びかけ、あの灯、あの不安、あれが人間の生活だと知るのだった。”
ただでさえロマンチックなフランス語で、ロマンチストなサン=テグジュペリの文章を訳すのは、本当に骨が折れたと思う。
ところで、この本は夜間飛行の後に、サン=テグジュペリの処女作”南方郵便局”も載っている。
むしろページ数は、南方郵便局の方が多く、夜間飛行は約130ページほど。
南方郵便局は、言い回しがもっと難解なので、実は読了していなかったり・・・。
夜間飛行にも、時々回りくどかったり、言葉が難しくて理解し難い時もある。
そういう時は、無理に全てを理解するのはやめて、なんとなく空気感を掴んで楽しむ方が良い。
そこで読書のリズムが崩れると、とっつきにくくなってしまう気がするから。
難しい言葉遣いや、馴染みの薄い世界が舞台なため理解するのに、頭を使う。
なので、通勤中の読書本としてはお勧めしない。
休日にカフェや自宅で、リラックスしながら読むことをお勧めする。
そしてもし飛行機に夜乗ることがあったら、ぜひ窓から外を覗いてほしい。
著者:サン=テグジュペリ
翻訳:堀口大學
頁数:334
出版:新潮社
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